「世界の経営学者はいま何を考えているのか」で明かされた9つの意外な事実
netgeek 2016年6月3日
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1.世界レベルで活躍している日本人の経営学者はわずか20人だけ。
入山章栄准教授が知る限りでは国際的な学術誌に論文を掲載したり、学会で発表したりしている日本人経営学者は多く見積もっても20人だけ。厳しく数えれば10人に満たない。グローバルな経営学者間の競争で日本は不利な状況にある。
2.アメリカの経営学者はドラッカーなんて知らない。
日本ではマネジメントの第一人者として超有名で本が売れまくっているピーター・ドラッカーは、アメリカではそもそも話題にすらならない。アメリカの経営学者はドラッカーの本なんて読まないし、そもそも知っているかどうかすら怪しい。その理由はドラッカーの主張は科学ではないから。単なるコンサルタントであるドラッカーは理論を構築していないし、理論の検証により普遍性があるかどうかも確認していない。経営学者とは分析のアプローチが違うため、全く違うところで生きている。
3.経営学は科学ではない。
真理を追求する科学において、経営学の理論というものは不確実性が伴うため、完璧な科学とは言い切れない。現在の経営学者たちはできるだけ頑健な理論を構築し、データで検証することで企業経営の真理を追求し、科学であることを目指している。
4.ハーバード・ビジネス・レビューは凄い学術誌ではない。
多くの人がハーバード・ビジネス・レビューを一流の論文発表の場と考えているが、経営学者にとってハーバード・ビジネス・レビューに論文を載せることは特に重要な業績にはならない。大学によって学術誌には「A」「Aマイナス」「B」などのランキングがつけられており、通常は研究者たちはAかAマイナスに掲載されることを目指して論文を執筆する。ハーバード・ビジネス・レビューはBランクにすら入っていない。
5.経営学にも派閥があって喧嘩する。
現在の経営学には経済学、認知心理学、社会学という3つの派閥がある。ファイブフォース分析で有名なマイケル・ポーター教授は経済学的なアプローチで経営を分析しており、ハーバート・サイモン教授は心理学という観点から経営を分析している。社会学的アプローチについては統計を用いて分析する流派。
駆け出しの経営学者はどの派閥に属するかについて頭を悩ませることになる。同じ経営事象でも分析のアプローチが違えば全く違う仕事になる。学者として業績をあげられるかはどのアプローチで解明するかがカギになってくるというわけだ。
6.マイケル・ポーターの理論はもう通用しない。
もともとファイブフォース分析により競争が緩く、儲かりやすい事業を見つけることをオススメしていたポーターはユニークなポジショニングと差別化で直接の競争を避けることが持続的な競争優位に繋がると主張していた。しかし、グローバル競争の激化とIT技術の発展などにより、現代の企業競争はより激しくなっており、長期に渡る競争優位をつくることなど不可能になってきた。ユニークなポジショニングをとってもすぐに他社が真似してくるし、差別化についてもすぐ同質化されるのだ。このことは統計的な分析でも実証された。
ではどうすればいいかというと、ハイパー・コンペティション(激しい競争)下では積極的な競争行動により責めることが重要となってくると結論付けられている。当たり前といえば当たり前だが…。
7.リソース・ベースト・ビューは経営理論ではないという批判がある。
価値ある資源を有する企業は持続的な競争優位を保つことができるというリソース・ベースト・ビューの考え方はトートロジーだという指摘がなされて論争が巻き起こった。「価値があり、希少、模倣困難で代替物もない資源を持つ会社は経営がうまくいく」というのは当たり前のことであり、逆に言えば経営がうまくいっている会社には優れた資源があるはずである。
ここで分かりやすく実務的に言えば、「優れた技術がある会社はうまくいく」と言われても、それは経営者としては何の役にも立たない理論であることは間違いない。だから批判を受けているのだ。リソース・ベースト・ビューという考え方は果たして本当に実務に役立つ経営理論なのだろうか?
8.多くのMBAホルダーがビジネススクールで学んだことを実務で使っていない。
カーネギーメロン大学の教授は卒業生が経営理論に基づいて判断するのではなく、勘や経験、コンサルティング会社のアドバイスによって経営判断していることに失望した。その後、教育の仕方そのものに問題があるのではないかと自省し、解決策として、あえて理論を構築しないエビデンス・ベースト・マネジメントというものが生まれた。
これは理論的に実証されていない事実でも、どんどん活用するという研究アプローチの方法だ。例えば「高い目標を設定したチームではそうでないチームよりも優れたパフォーマンスをあげる」ということは多くの人が経験則から知っている。統計的に実証されていなくとも、実務で役立つのだから認めようということで、エビデンス・ベースト・マネジメントは研究者が実務に歩み寄るアプローチといえよう。
9.異端な外れ値の企業は分析されにくい。
現在は統計学的な分析手法が主流となったことから独創的な企業はいまいちどうしてうまくいくのかが解明されにくい。ただし、この問題についてはケーススタディやベイズ統計、複雑系を使って分析するという新たな手法も生み出されている。今後このアプローチがうまくいけば新たな派閥が誕生することだろう。
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以上9つの事実から経営学がまだ未熟な学問であり、よく言えば進歩している研究分野ということが分かった。そもそも経営学といえば、実務家から「経営学者が考案したフレームワークや思考法は使わない」、それどころか「実務では使えない」という批判も聞かれる。
実際にホリエモンこと堀江貴文氏は経営学者を頭でっかちで机上の空論だけ唱えている無責任なやつらという認識で度々批判している。
実務家から役に立たないと言われているという事実は、経営学者としてはこれもまた一つの事実として謙虚に受け止めるべきであろう。
参考:経営学者はなぜ自分で会社を経営しないのか?一橋大学教授が答えたところ堀江貴文氏が強烈なツッコミ
参考:一橋大学の楠木建教授が「経営学は役立つのかどうか」を解説したところ堀江貴文が「文章が意味不明」とバッサリ
参考: 【速報】堀江貴文と佐山展生、楠木建(一橋大学教授)の間で戦争勃発!ホリエモン提唱のコンビニ居酒屋は成り立つのか
しかしながら、一方でMBAを取得した人たちからは「すごく役に立った」「フレームワークは今もずっと使っている」「定期的に本を読みなおして経営理論に沿って経営するよう心がけている」などとその教育が褒められることも多い。経営学は果たして役に立つのだろうか。人によって意見が真っ二つに割れるところであり、結論はまだまだ出そうにはない。
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