言語学者「目上の人に『ご苦労様です』『了解しました』を使うのは不適切ではない」
netgeek 2016年8月6日
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言語学者で国語辞典の編集委員でもある飯間浩明氏が、1960年代の資料をもとに行った解説は驚くべきものだった。
1960年刊行の『新しい模範手紙文』によると、「ご苦労様に存じます」「了解いたしました」は目上の人に使う言葉として問題なく、むしろ今では目上の人に使うべきとされている「お疲れさまでした」の記述がない。それらのビジネス敬語の概念は、ごく最近に生まれてきたことが窺える。
この指摘に対し、ネット上では共感や驚きなど様々な声が上がった。
なお、念のために確認してみると、「ご苦労様です」を目上の人に使ってはいけないとしているマナー解説は非常に多い。
仕事の問題を対処するために、あちこち駆けずり回ってくれた上司へ、ねぎらいの言葉をかけようとつい「ご苦労さまです」、「ご苦労さまでした」と言ってしまう場合があります。気持ちとしては、そのほうがぴったりきたとしても、「ご苦労さま」は目下の人に対して使う言葉。上司にねぎらいの言葉をかける時は、「お疲れさまでした」を使うのがビジネスマナーです。
なぜこのように、誤用が世間に広まってしまったのだろうか?
ライターの菊池良氏が検証した「了解しました」が誤用とされるに至った経緯に、そのヒントがあった。
「了解しました」よりも「承知しました」を使う方が正しい、とよく言われています。
僕がこれを初めて知ったとき、強い違和感を覚えました。(中略)
まず、Web上でいつから言われ始めたのかを調べました。
すると、「Webメディアで取り上げられ始めたのは2011年ごろ」だということ、そして、「最初は“メールマナー”として言われ始めた」ことがわかりました。(中略)
ビジネスマナー全般に関しての書籍も1980年〜2010年ごろのものを40冊ほど目を通しました。すると、「了解」を不適切としているものは見当たりませんでした。
かなり長い検証記事なので詳細はリンク先を読んで欲しい。菊池氏の調査によると、1960年代ごろから「了解しました」がビジネスシーンでよく使われるようになったが、2007年に刊行されたあるビジネスマナー本で「承知しました」がモアベターとされたことをきっかけに追随する意見が見られるように。そして2011年ごろにWEB上で常識として広まったと解説している。「了解しました」がNGになったのは、つい最近のことだ。
こうして1冊の本がきっかけとなって言葉が変節してしまった。
同じように「ご苦労様です」や「お疲れ様です」も、何かが発端となり誤用が広まってしまったと考えられる。「言葉は生き物だ」とよく言われる通り、一つ一つの単語に一義的な意味が定められているわけではないので一度広まった誤用を元に戻すのは容易でない。
少なくとも「ご苦労様です」を目上の人に使ってはいけないと思う人がいる以上、現状に合わせるしかないのだろう。ただ、このような誤用の広まりが起こっているのを知ることは大切だ。丁寧な解説をしてくださった飯間氏や菊池氏には、「ご苦労様でした」と言いたい。